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2013年3月20日 (水)

コーンウェル「神の手」を読了する

ネタバレ全開ですから、未読の方はご注意ください。

パトリシア・コーンウェルの「神の手」(上・下)を読了する。

ケイ・スカーペッタシリーズの14作だそうだ。

さて、スカーペッタは、アカデミーなるところで勤務している。
公の機関ではなく、彼女の優秀な姪・ルーシーが創設した私的機関だそうだ。・・・彼女が創設した私的機関というと、ラスト・プリシンクトが先行してるが、このアカデミーとの関係は不明である。

てか、

作中、ラスト・プリシンクトのラの字もプの字も出てこない。
ラスト・プリシンクトはどうなった?黒歴史化?

前のエントリで、「もはやケイが料理をすることはないんだろう」なんて書いてしまったが、嬉しいことに、ケイの料理は復活した。作中、マリーノのために、そしてベントンとのランチとして、二度、料理する描写がある。しかし、かつての作品ほど、いきいきした印象ではない。・・・なんというか、「読者や編集が切望するから、とりあえず入れてみたわ~」とコーンウェルが投げやりにやってるような・・・。実際のところはわからないけどw

まぁ、事件そのものは、前作「痕跡」ほど低調というほどではない。まぁ、それなりにスゴい事件だし、スゴい犯人だったし・・・(でも、いくらIQ150あっても、これじゃあなあ・・・)

しかし、なんというか

これは、小説だからこそ成立したトリックと思える。映像作品だったら、とてもじゃないが、この通りには描けないだろう。いや、まさか、アカデミー内にいる獅子身中の虫と仲良くしていた女学生と、ルーシーが一夜の相手に選んだ謎の女と、ベントンの研究に正常な検体として応募してきた人物と、さらに作中、おぞましい犯罪行為を繰り広げる人物とが、全員同一人物だっただなんて! 

しかし、それを成立させるための理屈が、犯人が多重人格だったから・・・というのは、いやはや。さんざん綿密に科学捜査してきて、オチにそういうのを、ぽん、と放り込まれるのは、なんともいえない。まぁ、でも、ミステリとして破綻はしていないとは思う。筋は通っているのは確かだ(読み終えてみると、ルーシーがアカデミーを全然省みていなかったのも、このトリックを成立するためのものだったと分かる)。ただ、それを、これまで綿密かつ地道な科学捜査を描くことで評価されてきた、このシリーズでやられると、なんとも・・・ヤレヤレな気分なのだ。

これが検屍官シリーズでなければ。・・・ただの科学捜査系ミステリだったのなら。
それならば、誰も文句は言わないだろう。出てくるキャラ名が、ケイ・スカーペッタなのも、ルーシーなのも、偶然の一致で、「検屍官」から始まる、あの検屍官シリーズとは無関係だというのなら、よかったのに。

だが、これは、あの検屍官シリーズと明らかに繋がっている物語なのである。そこがやりきれない。

だが、もはやシリーズは、あの検屍官シリーズとは別ものなのだ、と考えたほうがいいのだろう。あのシリーズは、おそらく「審問」で終わった。当初、作者がほのめかしていたような終結とは違ったろうが、終わったのだ、その後は、パラレルワールドの話なのだとみなしたほうが、長年の読者は精神衛生上いい。

本作でのケイ・スカーペッタは、検屍はほとんどしない。
彼女は、科学捜査一般に長けた、ドクターの資格ももつ、ベテランの理系のベテラン捜査官、といった風情である。手がかりは遺体のみ、そこに残された残虐な非道の数々を、冷静かつ客観的に調べ上げ分析し、犯罪者をあぶりだすといった検屍官スカーペッタは、もはやいない。

足でする捜査なんて、マリーノに任せておきゃいいのに! そう思えて仕方がない。
マリーノの本シリーズにおける存在意義はなんだ? メスのケイ、プロファイルのベントン、それに対して、いわゆる俗に言うところのデカの勘のマリーノではないのか? 科学によらぬ、泥臭い捜査官の世界を代表しているのがマリーノではないのか? そうであるからこそ、彼は物語に配置されたのではなかったのか? ・・・そこすらマリーノから取り上げて、ケイが出張るのは如何なものかと思う。

なんだか、最近のマリーノは、ケイ・スカーペッタにバカにされるために配置されてるんじゃないかと思えてならない。・・・そう、作中、マリーノがいろいろ感じている不満、尤もだ、と思えてならない。

しかし、この作品の中の登場人物たちは、不平不満ばっかりで、ちょっとウンザリしてくる。そして、突き詰めれば、それは「自分は普段こんなに頑張ってる。それなのに、アイツはそれをわからず、アイツの都合ばかり押し付けてくる」というような感じ。アカデミー獅子身中の虫の場合「自分はもっと評価されていい。アイツらよりも」という感じかな。

ベントンは特に他人への不満はないようだ。だが、最近ベントンという人が、物凄く自己中に思えてきた。昔の、ケイの一人称で、ケイの目を通して描かれてきた彼の姿は、あくまで理知的かつ穏健な紳士だったが、三人称で彼の言葉・彼の思考が直に描かれるようになると、なんというか、実は穏やかなエゴイストだったのだな、と思えて・・・むしろ、マリーノのほうが、人間として正直で、なんというのかなあ、ほどよく分を知って生きている、と感じられてきた。

あともう一人・・・ルーシーは、もうなんというか。なんだかもう無茶苦茶だ。
才気煥発で、金はあって、犯罪捜査組織を作って・・・?しかし、この様子じゃ「仏像作って魂入れず」だ。作って作りっぱなし。過去かかわった仲間らしき人物たちはどこへ行った?頼もしい仲間となれそうな人物とは疎遠になり、かかわりを持つのは、ろくでもない奴らばかり・・・「痕跡」でのヘンリ・ウォルデンは、ベントンの分析によればサイコすれすれ、そして本作「神の手」のスティーヴィーは、完全に一線を超えてしまった怪物。

普通、物語で、こうした危険な人物との接触は、それだけで大きな物語の開幕であり、その危険人物との関わり(というか戦い)で一編の物語がつくれるほどではないか。それをコーンウェルは、こんな扱い方をする。

そろそろ、ルーシー一人を主人公にしたスピンオフでも書いたらいいのに。と思わなくもない。ルーシーという人間の持つ危うさ、それゆえに関わってしまう途轍もない事件・・・ケイすらも脇役にして、そういうものを書いてみたらいいのに。ルーシーは、それだけのキャラだろうに。

このシリーズはケイが主役なのか。それにしてはルーシーの比重は大きすぎる。シリーズ長年のキャラで、ケイの姪で・・・当初は、ケイのプライヴェートのヒトコマだった。それが、ケイの、マリーノの、薫陶をうけ、ぐんぐんと成長していく。それは読者として楽しい風景だった。この連中の手ほどきを受けて、やがて逞しい捜査官としてルーシーは登場するのではないか、そのときはケイの頼もしい援け手となるだろうと、純粋に思っていた。予想は、なかば当たった。なのに・・・

輝かしい将来を期待させたルーシー。いざ、そのときが来て、こんなことになろうとは・・・。

パトリシア・コーンウェルは、基本的に悲観的だ。ケイを始めとして楽観的になることはまずない。その基本からしたら、ケイを始め、誰もが(そこには読者も含まれる)その将来を楽しみにしていたルーシーの成長後のいまが、ああなのも、納得できる。ただ、問題は、そこまでしちゃって、で、次どうするの? ということなのである。

FBIに行けば行ったで、あれこれあってダメで、ATFに異動したらしたで、そこもやっぱりダメで・・・それはそれで、コーンウェル特有の悲観的ドラマツルギーであって、必要なことだったろうとは思う。だが問題は、その先なのである。この先、彼女はどうするのか。FBIがダメ、次の組織もダメ・・・公的機関がダメなら、私的機関を作る。ううむ、「踊る大捜査線」や「相棒」などで、硬直した組織の問題に悩まされながら、それでも職務に忠実に犯罪と戦っている主人公たちを知ってる私としては、なんだかなあ、なのである。

もうちょっとさぁ、我慢したらどうなのよ、とついつい言いたくなる。堪え性のなさは犯罪者の特徴のひとつだが、ルーシーの一つ処に腰を落ち着けていられない様も、犯罪者同様じゃないか。

そして、自分の能力を過信しているところも犯罪者同様。ちょっとしたミスから、アカデミーのパスワードを、獅子身中の虫に知られ、データ管理を剥奪されていたなんて。この件ではもっと掘り下げが欲しかったように思う。あの獅子身中の虫から、目の当たりにルーシーが罵られ嘲られ、悔しさに歯噛みするルーシーという場面を見たかった。というか、そういうことは、ルーシーにとって必要なことなんじゃないかと思うのだが・・・コーンウェルは描かない。しかし、そもそも、スーパーハッカー並にIT方面に卓越していたはずのルーシーなのに、パスワード管理を怠っていたというのが、なんだか信じられないんだなあ。まぁ、だから、それも、おのれの優秀さをもてあましつつ、過信し、それゆえに周囲を見下しているということなら、そして、それを適切に物語の中で描くのなら、まだ許せるんだけど・・・。

公的機関を捨てて、私的機関に走ったルーシー。なのに、その私的機関ラスト・プリシンクトは、もはやシリーズに登場すらしない(なくなったかどうかはわからないけど)。と思ったら、

今度は、脳腫瘍だぁ?

ううむ・・・まぁ、いいや、まずは次の「異邦人」を読もう。

ベントンの研究「プレデター」プロジェクトはどうなるんだろ・・・犯罪者にコケにされたことで頓挫かしら。ま、それも読み進めればわかるだろう。ラスプリと一緒で黒歴史化してても驚かないけどねw

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